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イラストと絵画、どっちを描くべき?それぞれの魅力 | 寺野彬秀

  • 執筆者の写真: 寺野彬秀
    寺野彬秀
  • 1月2日
  • 読了時間: 8分

こんにちは。私は1980年生まれ、北海道在住の画家、寺野彬秀(てらの あきひで)と申します。普段は自然豊かな北海道の風景画を描く一方で、デジタルイラストの制作にも携わっています。そのため「イラストと絵画は何が違うの?」「自分はどちらを描いたほうがいいんだろう?」という相談を受けることが少なくありません。確かに一見すると、イラストも絵画も“描く”という点は同じですが、そこには求められる表現や目的に違いがあると感じます。


今回は、イラストと絵画、それぞれの魅力や特徴を整理しつつ、「どちらを描くべきか迷っている」という方が自分の進む道を見つけるためのヒントをお伝えできればと思います。もちろん、両方に挑戦してみるのも大いにアリ。大切なのは、自分が本当に描きたいものと向き合うことではないでしょうか。


1. そもそも「イラスト」と「絵画」の違いとは?


イラストと絵画の違いを端的に表すと、“目的”や“文脈”の違いが大きいと言えます。イラストは、雑誌や書籍、ウェブコンテンツなど、何かを伝えるために添えられるビジュアルとして発展してきました。キャラクターやストーリーをわかりやすく表現したり、商品を魅力的に見せるといった実用的な面が強いのが特徴です。一方、絵画は“アート”としての自律性が重視される傾向にあります。必ずしも何かの説明や装飾として描かれるわけではなく、作者の思想や感情、独自の美意識が込められることが多いです。


私自身も風景画を描くときは、キャンバス上で色彩や構図を使って自然の息吹や季節感を表現することに集中しますが、イラストを描くときは「このキャラクターの世界観をどう魅せるか」「読者やユーザーにとって見やすいか」といった別の視点を大切にします。どちらが上、ということではなく、目的や使われ方が異なるだけなのです。


2. イラストの魅力:わかりやすさと自由度の高さ


イラストの一番の魅力は、何といっても“わかりやすさ”にあると感じます。例えば、子ども向けの絵本では、明快な線とカラフルな配色でストーリーを伝えられるし、漫画やアニメのキャラクターも、ひと目見ただけでその性格や役割が伝わるようにデザインされています。複雑なテーマであっても、ビジュアルとしてシンプルにまとめることで、見る人に親近感や理解を与えやすい。それがイラストの強みです。


また、イラストはデジタルツールとの相性が良いこともあり、技法や表現方法が非常に多様です。厚塗りやアニメ塗り、トーンを使った漫画スタイルなど、どんな表現を選んでも“正解”がないのも魅力でしょう。私もデジタルイラストを描くときは、絵画ではあまり使わないようなエフェクトやブラシを試してみることがあります。イラストは“自由に楽しむ”というスタンスが取りやすいため、初心者でも取りかかりやすいのではないでしょうか。


3. 絵画の魅力:作者の“内面”を映し出す芸術性


一方、絵画の魅力はやはり“芸術性”にあると思います。必ずしも商業的な目的がなくてもよく、キャンバスや紙に向かいながら、作者の心象風景や哲学的な問いを表現できるのが絵画の特質ではないでしょうか。もちろん「シンプルでわかりやすい絵画」もありますが、抽象画や現代アートのように、一見して何を描いているのかわからない作品があっても構わない。それ自体に価値がある世界です。


私は北海道の大自然を主なテーマにしていますが、そのとき大切にしているのは“実際の風景をどう解釈し、どんな色彩で表現するか”という、かなり内面的な作業です。「現実そのままを写し取る」というよりは、「自分のフィルターを通して風景の魅力をどこまで深められるか」を追求するのが楽しい。絵画の場合、観る人にも“解釈の余地”が与えられるため、コミュニケーションの形がイラストとは異なるんですね。


4. イラスト向き?絵画向き?判断する方法


「自分はイラスト向きか、絵画向きか」という問いを受けることがありますが、実はどちらかを選ばなければいけないわけではありません。両方を並行して描くアーティストも多いですし、途中で興味が変わる人も珍しくありません。ただ、あえて言うなら、下記のポイントを目安にしてみるといいでしょう。


- イラストが向いていそうな人:

・キャラクターデザインや漫画的表現に興味がある

・商業的な仕事(書籍やゲームのイラストなど)に惹かれる

・わかりやすく伝えるデザイン的な思考が好き


- 絵画が向いていそうな人:

・自分の内面や感情を表現することに強い興味がある

・技法や画材にこだわり、じっくり作品を仕上げるのが好き

・必ずしも実用性を求めず、“芸術”としての価値を追求したい


もっとも、これらはあくまで大雑把な目安。実際は「キャラクターデザインが好きだけどアクリル絵の具も愛用している」なんて人もいますから、あまり気にしすぎず、両方試してみるのが一番確実です。


5. イラストから絵画、絵画からイラストへ“橋渡し”できる理由


イラストと絵画は違うもののように思えますが、実は互いに役立つスキルがたくさんあります。例えば、イラストを描く際に身につく“デザイン的思考”や“キャラクターの魅せ方”は、絵画における構図や色彩設計に活かせます。また、絵画の技法(筆遣いや陰影のつけ方など)は、イラストに取り入れることで作品の深みや独特の味わいを生むことができます。


私もデジタルイラストを描くときは、絵画で学んだ「明度や色相を考慮して空間を作る」感覚を活用していますし、逆に絵画を描くときは「ビジュアルのインパクトやストーリー性」をイラストから学んだ感性で補強している部分があります。イラストと絵画は対立するものではなく、“良き相乗効果”を発揮する関係にあるというわけですね。


6. 仕事にするなら?それぞれの“キャリアパス”


「将来的に仕事にしたい」と考える方にとっては、イラストと絵画で求められるキャリアパスや活躍の場が異なるかもしれません。イラストレーターとして活躍するなら、企業や個人からの依頼を受けたり、書籍やゲーム、SNSなどで作品を発表する機会が多いでしょう。最近ではオンラインでの受注が盛んで、フリーランスとして活動しながらイラストの案件を取る人も増えています。


一方、絵画で食べていきたいなら、ギャラリーやアートフェアでの展示販売、あるいは個展の開催を通してファンを獲得する方法が一般的です。また、最近はネット上のアートプラットフォームやSNSを使って直接作品を販売するケースも見られます。ただし、イラストと比べると“買い手がつくまでのハードル”は高く感じられるかもしれません。いずれにせよ、どちらも簡単に成功するわけではなく、地道な努力や情報発信が欠かせない世界です。


7. 自分に合ったスタイルを探す“実験”のすすめ


私がいつもお伝えしているのは、「イラストと絵画、どっちかに決める前に、まずいろいろ描いてみるといい」ということです。デジタルイラストをしばらく試してみて「線画が楽しい!」と感じる人もいれば、「やっぱり油絵の具の質感がたまらない」となる人もいます。最初から一つに絞ってしまうと、せっかくの可能性を狭めることにもなりかねません。


私自身も、最初はアクリル画しか興味がなかったのですが、ある時ふとデジタルイラストを触れてみたところ意外なほど相性が良いとわかりました。そこからは風景画のデジタル化やSNSでの発表など、新しい道がどんどん開けたんです。「やってみたら思いがけずハマった」というパターンは、アートの世界では本当によくあるので、まずは実験的に手を動かしてみてはいかがでしょうか。


8. 最終的には“描きたいもの”に素直になるのが一番


イラストと絵画、どちらにもそれぞれ異なる魅力があるわけですが、最終的には“自分が何を描きたいのか”を大切にするのが一番だと感じます。キャラクターが好きならイラストを突き詰めればいいし、風景や抽象的なテーマに惹かれるなら絵画的な手法が合うかもしれません。あるいは両方を行き来するのも自由です。


私の経験上、アートの世界に“これが正解”という道は存在しません。描きたい気持ちがあれば、それこそイラストの技法を使って絵画的な表現をすることもできますし、絵画の技術を駆使してイラストを描くのも立派なスタイルです。誰かの基準や常識に縛られすぎず、「自分はこれが好きだ!」という熱量を信じて描き続けているうちに、自分らしい表現が見えてくるのではないでしょうか。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。イラストと絵画、それぞれの魅力をお伝えしてきましたが、「どちらが優れている」「どちらが正しい」という話ではありません。結論としては“好きなほう、やりたいほうを描けばいい”というシンプルな答えに帰結します。でも、そのうえで少しでも「イラストってこういうところが良さそう」「絵画にはこんな面白みがあるんだな」と具体的にイメージを持っていただければ幸いです。


アートの世界は広大で、人それぞれ求めるものや表現したいものが異なります。イラストも絵画も、自分の内面や感性を形にする素晴らしい手段です。あなたが「これだ!」と思えるスタイルに巡り合い、存分に創作を楽しめるよう願っています。ぜひ自分なりのペースで、どちらの世界も味わってみてください。


執筆者:寺野彬秀

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