プロとアマの違いって何?画家が語る『絵の本質』 | 寺野彬秀
- 寺野彬秀
- 2024年12月18日
- 読了時間: 7分
こんにちは。私は1980年生まれ、北海道在住の画家、寺野彬秀(てらの あきひで)と申します。普段は主にアクリルや水彩を使って北海道の風景を描いたり、出張サービスという形で依頼主のもとへ赴き、そこの雰囲気を取り込んだ絵を制作したりと、さまざまなスタイルで活動しています。そんな私ですが、活動を続ける中でしばしば質問されるのが「プロとアマの違いって何ですか?」ということです。
いわゆる“プロ”とは、その道で生計を立てている人のことを指すのが一般的。一方で“アマチュア”は、仕事としてではなく趣味や情熱のままに取り組む人を指すことが多いでしょう。しかし、単純に収入の有無だけがプロとアマを分けるわけではありません。実際に私も、アマチュアでありながらプロ顔負けのクオリティを持つ方々にたくさん出会ってきました。
では、プロとアマの境界線とは一体何なのでしょうか? そして“絵の本質”とは何なのでしょう? 今回は、その問いに対して私なりに考えてきたことをお伝えしようと思います。アマチュアとして絵を楽しんでいる方、これからプロを目指したい方、すでにプロとして活躍している方――いろいろな方にとって、何かしらヒントになる部分があれば嬉しいです。
1. 絵で“稼ぐ”という視点
多くの人が抱く「プロ=生計を立てている人」というイメージは、決して間違ってはいません。なぜなら、“収益”はプロにとって非常に重要な要素だからです。アマチュアの場合、絵を描く楽しみそのものが第一の動機であり、売れるかどうかは二の次になることが多いでしょう。しかしプロとなると、「どうすれば作品が売れるのか?」「クライアントの要望は何か?」といった経済的、実務的な観点も常につきまといます。
私の場合も、初めは「好きな絵を描いて生活できたら最高だ」という軽い憧れからスタートしました。しかし、実際にプロを目指すと決めた途端、ギャラリーとの関係や値段設定、宣伝方法など、想像以上に多くの“売るための努力”が必要だと痛感しました。逆に言えば、アマチュアの方はこうした制約やプレッシャーがない分、自由に好きな絵を描けるという強みもあります。
2. プロの“責任”とアマの“自由”
プロとアマの違いとしてよく挙げられるのが、“責任”の重さです。プロはクライアントや顧客に対して作品を提供する立場なので、納期やクオリティに対して明確な責任が発生します。これに対してアマチュアは、基本的には自分の満足を第一に描くことができるため、時間やテーマの自由度が高いのです。
もちろん、アマチュアでも「個展を開きたい」「SNSで多くの人に見てもらいたい」など目標を持っている方はいるでしょう。その場合は、むしろ自分自身で目標や締め切りを設定し、プロのように“責任”を課すことでより高いモチベーションを保つ方法もあります。一方で、プロは時に「自分が本当に描きたいものではないテーマの仕事を引き受ける」ことも必要になってくるかもしれません。そうした制約とどう向き合うかは、人によって考え方が異なる部分だと思います。
3. 絵の“質”はプロ・アマで変わるのか
「プロのほうが絵が上手い」というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実際は必ずしもそうではありません。アマチュアでも驚くほどハイレベルな作品を生み出す方は大勢いますし、逆にプロとして活動しているからといって必ずしも卓越した技術を持っているわけではない場合もあります。
絵の“質”に影響を与えるのは、むしろどれだけ真摯に作品と向き合っているか、どれだけの時間とエネルギーを注いでいるかではないでしょうか。プロであろうがアマであろうが、“もっと良い絵を描きたい”という思いが強い人ほど、日々練習や研究を怠りません。そういう意味では、“質”という観点でプロとアマを比較するのはあまり意味がないかもしれません。
4. “見せる”ことへの意識
プロとアマの一つの大きな差は、“作品をどう見せるか”という意識の違いにあると感じます。アマチュアは自分や身近な人のために描いていることが多く、作品を広く公開することにそこまで執着がないかもしれません。しかしプロの場合、作品を売るためにも、多くの人に見てもらうためにも、“見せ方”が非常に重要になります。
私も、SNSやWebサイトでの作品の見せ方を工夫したり、展示会での照明やレイアウトにこだわったり、作品の背景となる物語をうまく伝えられるよう試行錯誤を繰り返してきました。どんなに素晴らしい作品でも、人の目に触れなければ評価されることがありません。プロとして活動していくなら、“見せる技術”は絵を描く技術と同じくらい大切だと思います。
5. 絵の“本質”とは何か
プロとアマの違いを考える中で、改めて立ち戻りたいのが“絵の本質”とは何かという問いです。人が絵を描く動機はさまざまでしょう。自分の感じたものを表現したい、誰かに感動や癒やしを与えたい、単に描く行為そのものが楽しい――など、理由は十人十色です。
私自身、絵を描く本質的な喜びは「伝えたいことがあるから描く」というところにあると思っています。目に映った美しい光景、心を揺さぶられた瞬間、人へのメッセージ……それを形にする手段が絵である、という感覚です。プロだからといって、この“本質”を失ってしまうと、自分が何のために描いているのか見失ってしまうかもしれません。逆に、アマチュアでもこの“本質”をしっかり感じて描いている人の絵は、不思議な魅力を放ちます。
6. プロを目指すなら考えておきたいこと
もしアマチュアの方が「プロを目指したい」と思うなら、まず最初に考えたいのは経済的な面と精神的な面での準備です。好きなことを仕事にするのは素晴らしいことですが、当然ながら収入が安定しない時期もありますし、制作の自由度が下がる場合もあります。それでもなお「絵で食べていきたい」という情熱があるなら、チャレンジする価値は十分にあるでしょう。
私もプロとして活動を始めた当初は、アルバイトや別の仕事を掛け持ちしながら少しずつ作品を発表し、人脈を広げていきました。個展を開くにしても、最初から大きなギャラリーを借りるのはリスクが高いですから、小さなカフェやスペースを利用してみる、SNSで少しずつファンを増やしていく、といった地道な努力が求められます。成功するための近道はないですが、コツコツ続けるうちに道が開けてくることも多いですよ。
7. アマとして活動する魅力
「絵を描くのが好きだけど、プロを目指すつもりはない」というアマチュアの方も大勢いらっしゃるでしょう。実は、アマチュアとして活動する魅力もたくさんあります。何より、“描きたいものを自由に描ける”というメリットは大きいです。収入や締め切りなどの制約がない分、純粋に創作の楽しみに没頭できるでしょう。
また、生活の糧を別の仕事で得ている方であれば、絵を描くことに過剰なプレッシャーを感じにくいかもしれません。プロとして活動していると、どうしても「描かなくちゃ」「売れなくちゃ」という義務感がつきまといがちです。アマチュアだからこそ味わえる“創作の自由”や“気楽さ”を大切にしながら、趣味として長く続けるのも素晴らしい選択肢です。
8. 最終的に“描く”のは自分自身
結局のところ、プロとアマの違いは“生計”や“責任”といった要素である程度区別されるかもしれませんが、絵そのものの本質はどちらであっても変わりません。プロであろうがアマであろうが、“描きたい”“伝えたい”という気持ちがあるから筆を握るわけです。
私が思うに、一番大切なのは「自分がなぜ絵を描きたいのか」を常に意識し続けること。その理由が「描くことでお金を稼ぎたい」でも構いませんし、「自分の感動を形にしたい」「人を喜ばせたい」でもいいと思います。大事なのは、その気持ちを原動力にして、どう行動し、どんな絵を描き、どんな場所で発表するかということ。最終的に“描く”のは自分自身であり、そこにはプロもアマもないのです。
いかがでしたでしょうか。プロとアマの違い、そして絵の本質について考えを巡らせてみました。改めて言えるのは、プロだから偉いわけでも、アマだから劣っているわけでもないということ。むしろ、“絵を描く喜び”や“伝えたい何か”がどれだけ強く、深く存在しているかが、作品の魅力を左右すると感じています。
もし「絵で食べていきたい」という思いがあるなら、それに向けた具体的なステップを踏み出すのもいいですし、「趣味として続ける方が自分には合っている」と思うならそれも立派な選択。大切なのは、自分が心から納得できる形で“絵”と向き合うことです。
プロとアマの境界線は思った以上に曖昧かもしれませんが、描くことの本質――つまり「表現したいという気持ち」や「誰かに何かを伝えたいという思い」は、どちらであっても変わらないと私は信じています。あなたが描く絵が、プロであろうとアマであろうと、かけがえのない表現であることに違いはありません。どうか自分なりのスタイルを大切に、絵を描く日々を楽しんでくださいね。
執筆者:寺野彬秀